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Tsuchikura Laboratory

分散している知識

ダートネルは『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(2015)をまとめている。

「僕らの知っていた世界は終わりを遂げた。決定的な問いは、さてどうするか、だ。」(p8)

講義との関連でポイントとなるのは、つぎの部分。

「先進国に暮らす人びとは、自分たちを支える文明の歩みからは分断されてきた。個々の人間としては、食糧や住居、衣服、医薬品、材料となるものあるいは生存に欠かせない物質の生産について、その初歩的なことですら僕らは唖然とするほど知らない。」(p9)

生存者が直面する最も深刻な問題は、人間の知識が人びとのあいだに広く拡散した集合的なものだということだ。社会を動かしつづけるために欠かせないプロセスを充分に知っている人間は、誰一人いない。製鋼所の熟練技術者が生き残ったとしても、自分の職務の詳細を知っているだけで、ほかの従業員がもっている製鋼所を動かすために不可欠なもろもろの知識を把握しているわけではない。まして鉄鉱石の採掘方法や、工場を動かすために電気を供給する方法などは知るはずもない。僕らが日常的に使っている最も目につく技術など、広大な氷山のほんの一角でしかない。そねが生産を支える製造および組織的大ネットワークにもとづくという意味だけでなく、進歩と発展の長い歴史の遣産を表わすからでもある。氷山は時空を超えて広がっているのだ。」(p12;強調は引用者)

 

文献

ダートネル,L.東郷えりか訳 2015 この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた,河出書房新社

 

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混沌と秩序

・何を「デフォルト」で与えられて経験し、経過のなかで、何を「カスタマイズ」されて/自ら「カスタマイズ」して、獲得してきたのか。(※)

・「カスタマイズ」されたものを、デフォルトとして与えられた場合、何を喪い/何を得るのか、それは旧世代とのあいだでどのような確執をうむか。進むのか、別のかたちでもどるのか。

・それをどのように決めるのか。

 

一次      ⇔     二次

デフォルト   ⇔     カスタマイズド

混沌      ⇔     秩序

パブリック   ⇔     プライベート

生活世界    ⇔     システム

リアルX    ⇔     ヴァーチャルX

計算不可能   ⇔     計算可能

作る      ⇔     買う

 

※もちろん、デフォルトは相対的にデフォルトであるにすぎない。二項の境界はあいまいでグラデーションの状態。議論をクリアにするためにくっきりカテゴリ化している。議論のために行ったこの操作を、議論を経て得た結論のもとで解除してみる必要もある。

 

「西洋の科学的世界観は、問題だらけである。それは文字どおりに問題なのであって、問題が生活の「あり方」そのものになっている。人びとは、自分自身と他者を問題によって見、理解し、問題という言語で語るように社会化される。そして問題には、常にそうなるとは限らないが、解決を伴う。日常言語で質問が可能な答えを含意するように、問題は可能な解決を含意する。問題を特定して答えを導くことは、卓越した科学、良い教育、優れた政府、優秀な外交、そして充足した生活の品質保証となる。問題を発見すべしと教えられ、解決を求めるべしと教えられる。このような見方と考え方は、車を修理したり家を建てる場合にはよいかもしれないが、子どもを育てたり、平和に暮らしたり、貧困をなくすなどの、人間の発達に関連する場合、有効かどうかは疑わしい。いまだに、この問題解決パラダイムは支配的であり、世界を創造し続ける人間の可能性を過剰に方向づけ、大きく制限している。このパラダイムこそが問題なのである。」

(ホルツマン,2014,pp.14-15)

 

ホルツマン,L.茂呂雄二訳 2014 遊ぶヴィゴツキー新曜社

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