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失敗と学び

「仕事における学び」を考えているわけですが、その学びのある特徴について、あらためて学生の学びとの比較で考えてみましょう。

すこし長いですが、山崎(2015)から引用します。

 

「“学ぶ”という姿勢は、学生にも社会人にも必要なものですが、学生時代にしかできない学び方というものがあり、これが社会に出てから大きな力になっていきます。たとえば、インプットした知識や経験を、自分の思考の中で組み合わせたり加工することによって、新たな作品や成果としてアウトプットしていくプロセス。社会人の多くは、それを「仕事」として取り組み、「報酬」を得ます。つまり、「報酬(=金額)」に見合った結果を出せなければ評価が下がり、失敗を繰り返せば仕事そのものを失う可能性も出てくるということです。/一方、学生はどうか?同じプロセスでも学生は「報酬(=お金)」を稼ぐために取り組むわけじゃない。学費を払っているわけですから、自分が試してみたいやり方を最優先して作業に取り組むことも許される。ルール違反さえ犯していなければ、たとえ失敗しても、それで学校をクビになることはないし、むしろ上手く行かなかった経験はレベルアップしていく糧になります。そのプロセスを何度も繰り返すことが“学び”の姿勢を習慣化することになっていくのです。」

(山崎,2015,pp.108-109)

 

こうした特徴が、福島真人の主張と重なることに気づくと思います。また、イノベーションに関して言われることとの関連にも気づくはずです。

失敗と学び・創造の関係にもうすこし注目していきましょう。

 

文献

山崎亮 2015 ふるさとを元気にする仕事,筑摩書房.(ちくまプリマー新書

枯れた水路のただなかで

・枯れた水路がある。かつて、その水路は人びとの役に立っていた。

・たしかにいまもそこには水路の構造物の跡はある。

・また、水路に関する資料もある。資料には、どこから水が流れてきて、どのように枝分かれしながら流れてゆくのか、といったことの説明はある。

・ところが構造物の跡と資料では、その流れを復元することはできない。

・・当時を知る人は、水路が活かされていたのをみていた。ところがどうして流れていたのかは知らない。

・・枯れた水路しか知らない人にも、当然それがわからない。

・この「危機」において、かつて水路が果たしていた機能を別のかたちで補う、といった方向性をとりうる。または、まったく違うアーティファクトとニーズを同時に作り出す、といったやり方がある。

・・いずれにしても、主とされる機能はもちろん、その副次的効果も含めて、理解しておけるとよいのだろう。

・もう水はないのだ。

 

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イノベーションの制度設計のヒント

シーナ・アイエンガーのインタビューからイノベーションを起こすヒントになりそうな部分を引用します。
 
「日本は、イノベーションに対する敬意をもっと文化のなかにつくりださなければなりません。そのためには、失敗に対して寛容になることです。ワイルドなアイデアをもっている人からしか、イノベーションは生まれてきません。」(p28)
 
「日本には「失敗は恥」と思う傾向がありますね。・・・略・・・シリコンバレーベンチャーキャピタリストがまず何を話すかというと、自分の過去の失敗です。それが名誉の勲章であると考えているのです。」(p28)
 
「大胆な決断をするには、リスクを取る能力を必要とします。つまり、失敗を恐れないということです。大胆な決断をするときはどんなときでも、失敗のリスクは高くなるものです。・・・略・・・」(p32)
 
「アメリカにインテュイット(Intuit)というソフトウェア開発の会社があります。同社がいま取り組んでいるのは、「迅速な実験」(rapid experiment)という方式です。まず、従業員を小さなグループ・・・略・・・に分類します。そして、それぞれのグループに資金を与え、異なったビジネスアイデアに挑戦させます。/ほとんどのアイデアはうまくいきませんが、成功すると莫大な儲けが入ってくる。うまくいかなくても、全社的なプロジェクトで失敗した場合より、ムダになるお金も少ない。・・・略・・・会社内だけではなく、社会全体でこうした試行錯誤を積み重ねていけば、非常に面白いことが起きると思います。」(p41-42)
 
・ポイントのひとつは、イノベーションをつねに失敗との関連で説明することです。
・引用部分以外では、よい失敗の仕方、リスク回避の方法は、(失敗の)経験を通じて学べることにも言及しています。
イノベーションは必ずしも先読みできるものではありません。だからこそ、イノベーションを起こすこととリスクを回避することをトータルで実現するような環境を整えることが重要であることがわかります。
・注目したいのはさいごの点です。ベネフィットの獲得に向けて、安心して失敗できる状況を(個人の裁量に委ねて作らせるのではなく)、制度として設けることです。これにより、前半で論じているような個人特性や文化特性とみえるものも変化していくことが考えられます。「制度」についてはあらためて説明します。
 
文献
シーナ・アイエンガー(大野和基編) 2013 知の最先端,PHP研究所.(PHP新書
*大野による多数の識者に対するインタビュー集
 
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