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Tsuchikura Laboratory

鰓トロピズム

ネコの事例との関連を考えてみましょう。

19 トロピズム〔=向性〕と差異感覚

 サケは、マスやその他のサケ科の魚たち同様、活発に呼吸し、たくさんの酸素を必要とする。生殖期には特にそれが顕著となるが、これは体内で、そこに蓄えられた保存物質を変化させ、生殖要素にしたて上げねばならないからである。こうした新陳代謝をともなう酸化現象こそが、あの呼吸の増加を説明するわけだが、それというのも個体は、自己の周囲に、それまで満足していた以上の酸素溶解率を見いださねばならなくなるからだ。……酸素がより多く供給されるという理由で、サケは、海水から淡水へと移行する。川の流域の合流点にやってくると、彼らは、とりわけ酸素溶解度の高い支流へと入ってゆく。そうして次第次第に、最上流の合流点までさかのぼる。そこは、海からは最も遠いが、一番めぐまれた環境になっているのだ。とうとう、水の酸素溶解率が最高になる場所に着くと、彼らは停止して産卵場所を決める。……こうした事情を考えてみれば、サケの回遊である川のぼりは、トロピズム現象の仲間として分類されるべきだろう。この集団移動は、それ以外には考えようがあるまい。逆境にもめげず、つねに同じ方向に導かれるこの運動、突然の停止と、その後に反応として起こる最終的な産卵の危機、それらは、意志的な選択がまったく介入せず、生体の状態と環境条件との一致が主役を演じるような衝動こそが重要であることを示している。そこには、周遊せねばならぬという決定論が存在する。回遊は、周囲の状況の直接的な作用によってひき起こされ、その状況が細かい差異に応じてさまざまに感知されることで調節され、その目的へと個体を導いてゆく。……この一連の回遊現象は、徹頭徹尾、呼吸トロピズム、もしくは一語に要約すれば〈鰓トロピズム〉の見事な性格を示している。

ルール『回遊魚』〔1922〕より

 

上記はドゥルーズの『本能と制度』に収録。『本能と制度』はドゥルーズが高校教師をしていた頃に、教科書版として編んだアンソロジー(訳者あとがき)

 

ドゥルーズ,G.加賀野井秀一訳 2010 哲学の教科書―ドゥルーズ初期,河出書房新社.(河出文庫

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