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『ヤシガラ椀の外へ』

タイトルはベネディクト・アンダーソン(1936-2015)が日本の読者向けに執筆した自伝から。

その説明を引いておきます。

インドネシアやシャムには、「ヤシガラ椀の下のカエル」という諺がある。これらの国では、半分に割ったヤシガラをお椀として使う。この椀には台がなく、底は丸いままだ。椀が上を向いているところに間違って飛び込み、椀が引っ繰り返って中に閉じ込められたカエルは、椀を前後左右に動かすことはできても、なかなかそこから抜け出すことができない。そうこうしているうちに、やがてカエルの知る世界はヤシガラ椀が覆う狭い空間だけになってしまう。「ヤシガラ椀の下のカエル」―日本の「井の中の蛙」と似てはいるがニュアンスは微妙に違う―と異なり、私は腰を落ち着けて根を下ろすほどには一箇所に長く住んだことがなかった。」(pp.44-45)

 

「ヤシガラ椀の下のカエルは、椀から這い出すことが叶わず、やがてカエルは、頭上にある椀の天井が天空だと思い込むようになる。」(p.189)

 

ほかにも、155頁、282頁には、別の文脈でヤシガラ椀の下のカエルが言及されています。

 

タイトルの由来については訳者あとがきで説明されています。

 

ほかにも印象的なエピソードや著者の思いが随所に示されています。

アメリカ人研究者が外国語を学ばなくなっているという議論のあとの記述。

「ヨーロッパからアメリカに逃れ、イェール大学に落ち着いた亡命オーストリア政治学者カール・ドイチュは次のように言ったそうだが、彼は結局、正しいのかもしれない。「権力とは耳を傾ける必要がないということだ!」」(p.281)

 

アンダーソン,B. 加藤剛訳 2009 ヤシガラ椀の外へ,NTT出版

 

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