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Tsuchikura Laboratory

自然淘汰の基本条件

まず、自然淘汰(自然選択)の基本条件を、長谷川・長谷川(2000,pp.25-26)から引用します。

(1)生物には、生き残るよりも多くの子が生まれる。

(2)生物の個体には、同じ種に属していても、さまざまな変異が見られる。

(3)変異の中には、生存や繁殖に影響を及ぼすものがある。

(4)そのような変異の中には、親から子へと遺伝するものがある。

この四つの条件が満たされていれば、生存や繁殖に有利な変異が、集団の中に広まっていくことになるでしょう。この過程を自然淘汰と呼びます。

 

こうした議論を前提に、この論理を、生物の身体や行動の特徴とは異なる対象に適用しようとすると、どのようなことが考えられるのか(どのようなことを考えるべきなのか)を考えていくことが求められます。

 

文献

長谷川寿一長谷川眞理子 2000 進化と人間行動,東京大学出版会

行動を説明する4つのアプローチ

ある行動がなぜ存在するのかを説明する4つの要因を長谷川(2009,p.12)から引いておきます。

 

・至近要因:その行動は、どのような直接のメカニズムによって引き起こされるのか

・発達要因:その行動は、個体の成長と発達の過程でどのようにして完成されてきたのか

・究極要因:その行動は、どのような機能を果たしているのか、どのような適応的価値があるからその行動があるのか

・系統進化要因:その行動は、その動物の祖先のどのような行動から、どのような道筋を経て現在の行動になったのか

 

シジュウカラの雄は春になるとさえずる」という行動について、4つの要因からアプローチする例。こちらも長谷川(2019,p.13)から。

 

・至近要因:日照時間が長くなってきたことを感知する脳内のメカニズムによる説明。日照時間の変化を感知により生じたことが、性ホルモンに働きかけてさえずりを促すメカニズムによる説明。

・発達要因:ヒナの脳内に生まれつき備わっているさえずりの「鋳型」の存在やそれが、成長の過程で同種の雄のさえずりを聞くことによって修正を受けること、自らがさえずって練習することで完成する、というプロセスによる説明。

・究極要因:さえずりは、雄どうしのなわばりをめぐる競争と、雌に対する求愛の機能を果たしていることによる説明。さえずることが配偶相手の獲得に重要であることによる説明。

・系統進化要因:現在のようにはさえずらなかった祖先の鳥のどんな鳴き声が、どのように変化して現在のさえずりになったのかの歴史的プロセスによる説明。

 

「ある行動がなぜ存在するのか」という問いを立てるときに、自分はどの水準の説明を求めているのかを考えてみるとよいと思います。

 

文献

長谷川眞理子 2009 動物の生存戦略―行動から探る生き物の不思議,左右社.

Timbergen, N. 1963 On aims and methods of ethology. Zeitschrift für Tierpsychologie, 20,410-433.

ケリーについて

G. A. KellyとH. H. Kelleyの2人のケリー

 

George A. Kelly(1905-1967)

・パーソナルコンストラクトのケリー

 

Harold H. Kelley(1921-2003)

・共変原理で知られる、レヴィンとともに研究をしたケリー

・レヴィンについてまとめたマロー(1972)から、ケリーが語ったことを中心にまとめられた部分を引用する。

 

「ハロルド・H・ケリーは、地域社会問題委員会の会長スチュアート・クックのすすめに従って、レヴィンと一緒に研究することを選択したのだが、ケリーは、他の大学院生と同じように、毎週、レヴィンの開くセミナーに出席した。彼はすでに、バークレイのカリフォルニア大学で、ラルフ・グランドラックのもとで心理学を学び、修士の称号をとっており、軍隊では、クックやジョン・レイシーなどとともに研究に従事して、広い経験をもっていたが、彼自身としては、彼〔レヴィン;引用者〕のいわゆる「異国的な、特別の領域、すなわち、レヴィンがやっているトポロジー的・ベクトル的分析法、アリストテレス的な考え方に対するガリレオ的な思考様式、そのほかたくさんの新しい研究法」については、まだ準備不足だと思っていた。「私は木を求めて、森を見ることができなかったのです」と、現在のケリーも告白している。「私には、研究が何を証明しているかということはわかっても、その研究が取り組んでいる問題や、取りあげている疑問からみて、その研究の価値を認識する広い視野が欠けていました。・・・中略・・・ほとんど四分の一世紀に近い昔をふりかえりながら、ケリーは今も、「社会心理学に指針を与えた点で、レヴィン以上に強い影響力をもった人は、いまだかつてなかった」と信じている。ケリーによると、この影響は、社会心理学が前進するためにはどうしたらよいのかといった特殊な考え方や事のなりゆきに関するものではなくて、理論的な分析のレベルの問題(対人関係のレベルで分析するのか、社会的に重要な意味をもった人間の内部のレベルで分析するのかということ)や、一般的な研究のすすめ方の問題(理論の建設や検証を主にした実験を行なうこと)に関するものであった。」(pp.332-334)

 

ハロルド・ケリーについて

https://senate.universityofcalifornia.edu/_files/inmemoriam/html/HaroldH.Kelley.htm

マローの出典についてはレヴィンの記事を参照

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