共同体・組織を考えるヒントとしての『市場の倫理 統治の倫理』、そしてひとつの事例としての大学。
『市場の倫理 統治の倫理』
訳者あとがきによる『市場の倫理 統治の倫理』のポイント(訳者・香西泰,p.337-338)
(1)人間がその必要とするものを入手するには、縄張りから取得する(take)か、またはお互いに取引する(trade)。前者は他の動物と同じ生活だが、後者は人間だけが行う。
(2)人間の生活にこの二つの様式があることに対応して、人間の社会的道徳にも統治の倫理(たとえば忠実)と市場の倫理(たとえば誠実)の二つがあり、両者はしばしば相互に矛盾し対立する。
(3)したがってこの二つの倫理を混同すると、「救いがたい腐敗」が生ずる。
(4)これを避けるには、統治者と商人を身分的に区別するカースト制を布くか、または課題に応じて統治の倫理、市場の倫理のいずれかを自覚的に選択するか、二つに一つである。(5)民主主義の下では身分制はとれず、自覚的倫理選択が必須となる。
(ジェイコブズ,1998,p311)
〇市場の倫理
- 暴力を締め出せ
- 自発的に合意せよ
- 正直たれ
- 他人や外国人とも気やすく協力せよ
- 競争せよ
- 契約尊重
- 創意工夫の発揮
- 新奇・発明を取り入れよ
- 効率を高めよ
- 快適と便利さの向上
- 目的のために異説を唱えよ
- 生産的目的に投資せよ
- 勤勉なれ
- 節倹たれ
- 楽観せよ
〇統治の倫理
- 取引を避けよ
- 勇敢であれ
- 規律遵守
- 伝統堅持
- 位階尊重
- 忠実たれ
- 復讐せよ
- 目的のためには欺け
- 余暇を豊かに使え
- 見栄を張れ
- 気前よく施せ
- 排他的であれ
- 剛毅たれ
- 運命甘受
- 名誉を尊べ
三種類の学問の自由(将棋面,2014,pp.204-206)
ロンドン大学ユニヴァーシティー・コレッジ法学教授のエリック・バレントによれば、学問の自由には三種類あり、その第一は個々の学者の権利に関するもの、第二に、大学の制度的自律性に関わるもの、第三に大学の運営における学者の自治権に関するもの、である。
1)個々の学者の権利としての学問の自由
大学の研究者が、自分の問題関心に従って研究活動を行い、その成果を公表・出版する点において自由であるという意味である。また、その研究者が大学で教鞭をとる際、自分の真理観に基づいて、その研究領域における学問的真理を伝授することにおいて自由であるということをも意味する。
2)大学の制度的自律性
大学の運営に際して国家から干渉を受けないという意味での自由を意味する。これはたとえば、大学における新しい教授の選考過程で、学者たちがもっぱら研究者および教育者としての資質・能力によって応募者を選抜するのが理想であるが、そこへ国家権力が介入し、国家にとって都合のよい人材や権力者のコネによる採用を強要したりする場合は、大学の制度的自律性という意味における学問の自由は侵害されることになる。
3)大学の運営における学者の自治権
大学の最高意思決定機関(たとえば評議会)においてその構成員の過半数を学者が占めることである。アメリカの大学では構成員は必ずしも大学人ではない。・・・大学の評議会の大半または全員が大学人の場合は、大学人による大学運営上の自治を容易に守ることができる。
文献
ジェイコブズ,J. 香西泰訳 1998 市場の倫理統治の倫理,日本経済新聞社.
将棋面貴巳 2014 言論抑圧,中公新書.