・イタリアはローマ、ネミの村。
・ディアナ神殿の祭司になり、「森の王」の称号を得るには、神殿の森の聖なる樹から一本の枝を折り、それでいまの祭司を殺さなければならない。
1)なぜ祭司を殺さなければならないのか?
2)なぜ聖なる樹の枝を折らなければならないのか?
1)なぜ祭司を殺さなければならないのか?
・樹木には豊穣の力が宿る
・祭司は呪術師と王の役割を果たしていた
・・王は好天と豊かな作物をもたすと考えられた
・弱い王、老いた方は自然の運行を守るという本来の役目を果たせなくなる
・・感染の原理により、王の弱さが自然の豊穣を脅かすため
・・王は継承者に王座を明け渡す
・・継承者は王を殺すことで、自分のほうが王としての務めを果たす力があることを示す
=祭司が殺されるのは、植物の死と再生という自然界の秩序を反映しており、自然界を存続させるため。
・人間はわが身を襲った災厄を他のものに転嫁しようとしてきた。その一つとして、身代わりとしての死。
・・豊穣祈願、災厄排除のためのいけにえ
=森の王は、身代わりとしても殺された。
2)なぜ聖なる樹の枝を折らなければならないのか?
・ヨーロッパではヤドリギは迷信的崇拝の対象
・・薬効があるとされる
・・とくに寄生対象がオークの場合には神聖。
・ヤドリギにはオークの生命が宿っている
・・オークの葉が落ちてしまう冬でも、ヤドリギは青々と茂っている
↓ つぎのような考え
・・ヤドリギが無事でいるかぎり、オークの樹を傷つけたり、殺すことはできない
・・ヤドリギを引きちぎると、オークは倒れる
・森の王=オークの神ユピテルの化身
・金枝=オークの木に寄生し、「森の王」の霊魂が宿っているヤドリギの枝
→オークの樹と同様、ヤドリギが無事であるかぎり、森の王を殺すことはできない。だから、まず枝を折る必要がある。
(背景)
・北欧の善と美の神バルデルの神話
・・バルデルは不死身。ただし、ヤドリギでのみ傷つけられる。
・・バルデルを殺せるのはヤドリギだけ。しかも、オークの樹からとられたものでないかぎり、殺せない。
・・かつ、バルデルの命はヤドリギに宿っている
文献
ジェームズ・フレーザー 内田昭一郎・吉岡晶子訳 1994 図説 金枝篇,東京書籍