宮本(2001)は人びとのもちいる道具が意図せず環境に/景観に影響を及ぼしていることを示す。
・畑の形のきまっていくのにはいろいろの条件があり、その中でも地形が畑の形におよぼす影響は大きいのであるが、農具がかたちをきめていく場合も少なくない。
・長崎県の五島や壱岐へいくと、まるい形の畑が少なくない。これは地形がゆるやかな丘陵をなしており、そこで用いる農具が抱持立犂(かかえもつたてすき)という方向を自在に向けなおすことのできる犂を手につけて使用するとき、渦巻型にすいていくともっとも能率があがるからだという。そういう畑は抱持立犂のおこなわれないところにはあまり見受けられない。
・また長床犂(ちょうしょうすき)を用いるところでは短冊形の畑が多くなる。水田などでも短冊形の多いところは早くから長床犂がおこなわれていたと見てよい。
・さらにまた、共同開墾などしたときにはほぼ平等に矩形にわけられてゆくのが普通だから一目見ればそれとわかる。沖縄の畑にもそういうものが少なくないのであるが、その場合には効率の高い農具がある程度ゆきわたっていたと見てよいのである。
・つまり畑の形のありようでその畑のひらけ方をある程度まで推定できる。 (宮本,2001,pp.7-8)(引用にあたり、中点と一部改行をくわえた)
・宮本はこの話を久米島の航空写真から起こしています。これをうけて、上記の説明にいたります。
・さて、私たちの関心は、道具の利用によって意図せず生まれた環境/景観が、航空写真ではなく、生活体験において、どのような違いとして表われるか、にあるわけです。
・もうひとつ、こちらは余談ではありますが、いまの農具においても、上記のようなことはあるのか、あるとすれば、どのようなことなのか、も気になります。
宮本常一 2001 空からの民俗学,岩波書店(岩波現代文庫)