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Tsuchikura Laboratory

意味を発揮する文脈

ある言葉が意味を発揮する文脈をさがすことを考えたときに、ヒントになりそうな議論を参照する。

アレクサンドル・ルリヤは、頭部外傷を受けたザシェツキーの記録をまとめている。ザシェツキーは空間認知の問題、言葉の認識の問題、言葉を思い出せない問題などを抱えている。言葉を思い出せない問題は、ザシェツキーの記録を読むかぎり、あたかも部屋のなかで探し物をしているときのように言葉を探しているような具合である。この問題について、ルリヤが言及している部分。

「ある単語を想起するときに、私達は常にいろいろな多くの可能な選択肢からそれを選ばねばならない。ある場合は正しい連想がたいへん浮かんできやすく、他の連想が生ずる可能性はほとんどないに等しいことがある。たとえば、あなたが次の文「冬になれば、街路は・・・・・・でおおわれる」を完成しなければならないと仮定しよう。もちろん「雪」だ。「雪」以外の単語を思い出すとはまったく考えられない。選択は単純である。ここでは二、三の可能性しかない。しかし、しばしば状況はもっとずっと複雑である。次の文「・・・・・・を買うために外出した」を問題としてみよう。この場合、「・・・・・・」の部分に何を埋めればよいであろうか?「パン」で埋めるべきであろうか?「新聞」だろうか?「帽子」だろうか?この場合、正しい単語を発見する可能性は明確ではない。記憶の貯蔵庫から正しい単語を選ぶために特定の情況についてもっと多くの情報を必要とするからである。/しかし、もし文脈はなく、そしてただ一つの単語を見出さなければならないとするならばどういうふうにさがすだろうか?」(pp.154-155)

読むひとに意味を発揮する文脈を提供する、あるいは、意味を発揮する文脈を無視していることを可視化する文脈を提供する、ということを考えてみる。

(後者は、たとえばきちんと「読まれずに」なされた指摘が無意味・すれ違っていることを、別の読むひとに示す、といったこと)

 

ルリヤ,A.R.杉下守弘・堀口健治訳 1980 失われた世界―脳損傷者の手記.海鳴社

 

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