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陰とやさしさ

私達が関心を寄せる人間関係の周囲を照らすために、臨床心理学者の河合隼雄が記した「大人の友情」からいくつか引いてみる。重なる部分、重ならない部分を考えてみたい。

「友情を支えているものは何だろう。直接的な実利のある関係は大切ではあるが、友人関係とは言わない。単なる「知り合い」も違う気がする。もっとも、すこし知りあっても「友人」と考えて、友人の数が多いのを自慢する人もいるが、やはり、単なる知人というのを超えて、友人を考えるのが、普通だろう。そこには、二人の関係を支えているXがあり、そのXが直接に利害関係では説明できないところに、友情の妙味がある。」(p.29)

「どんなに立派な人、人格高潔な人も心のどこかには陰がある。ただ、それとどのような形で生きてゆくか、というところに難しい問題がある。陰があるのは残念だし、悪は許容し難い。しかし、それによって人を全面拒否するのはおかしい。人生の、友情の味にはほろ苦さが混ざっている。」(p.120)

「友人との関係が深くなるにつれて、その影の部分が明らかになるにもかかわらず、なお友人関係が続くためには、そこに「やさしさ」がなくてはならない。/友人の欠点や、時には悪事をさえ知るかもしれない。それを肯定することはないが、非難する前に、まずそのようなことのある人間としての苦しみや悲しみの方に身を寄せる。その気持を共にした上で、それからのことを考える。外から見て批判し、非難する以前に、内側に共に立って感情をわかちあう、やさしさが友情を支える。」(p.39)

 

そのやさしさはどこから来るのか?という問いに河合は回答を与えている。その回答は、残念ながら私たちが追究している問いの回答になるものではない。さて、河合は何と回答しているのか、そして、その回答を踏まえて私たちは何を考えるのか。

 

河合隼雄 2008 大人の友情 朝日新聞社朝日文庫

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