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教育実習の経験に関する研究(YNU)(2018年度)

・YNUの集中講義で、「教育実習の経験」という大きなテーマのもと、チームごとにRQを設定し、インタビュー研究に取り組みました。

・研究の成果をまとめたプレゼンテーションをアップします。5チームあります。一部授業で述べたことと重なりますが、コメントもつけておきます。

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Aチーム

 

 RQは「モチベーションの変化において、他の実習生との関わりが及ぼす影響」を明らかにすることでした。これに向けて、さしあたり、「モチベーション」にかかわる部分と「他の実習生との関わり」にかかわる部分を抽出し、それぞれにたいしてKJ法を行ないました。分析を丁寧に進められていたように思います。
 それぞれについてカテゴリが見いだされたあとで、相互の関連をさぐるべく、データにもどりつつ、カテゴリ間の関連性をさぐりました。大変意欲的な取り組みで感心しました。
 一方で、このやりかただと、どうしても手続きがあいまいになってしまい、恣意的という指摘を免れがたいように思います。では、どうすればよかったのか。
 たとえば、上記2つにくわえて、さらに「他の実習生とのかかわり」と「モチベーション」の相互に関連する部分を抽出して分析すると、よりデータに根ざしたかたちでRQを追究できたかと思います。

 カテゴリ表をプレゼンに含めることができませんでしたが、丁寧に作られていてよかったです。

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Bチーム

 当初立てたRQがチャレンジングでしたね。最終的には、得られた結果に即すようにRQを見直すことになりました。これ自体は妥当な判断だと思います。しかし、結果的に、職業志向に影響を及ぼすカテゴリが明らかになると、やはり、それらが職業志向に「どのような」影響を及ぼしたのかを知りたくなりますね。こうして当初のRQにもどってくるわけでますが、それはつぎの課題になりそうです。

 どうすれば、はじめから当初のRQを追究できたでしょうか。授業でもコメントしましたが、インフォーマントの当初の職業志向・インタビュー時の職業志向を踏まえた上で、RQをもうすこししぼってみるとよかったかなと思います。
 そうすると、「何」を抽出するべきか、あるいは、抽出するものとしないものの境界がクリアになり、結果的に、KJをしやすくなり、ひいては、結果とRQの対応もよくなったのではないかと思います。

 Bチームもプレゼンに含めなかった表が丁寧に作られていてよかったです。これをみると、抽出する単位が少々大きかったかなという印象を受けます。設問と回答を切り離さずに、文脈に配慮して分析したい、という意図はよいと思います。その方針を重視しつつ、単位を小さくする工夫もできたかなと思います。
 こうした気づきには、やってみたからこそわかるものもあり、工夫をしつづけることが大切になります。

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Cチーム

 切片の多さに翻弄されながらよくまとめたと思います。ボトムアップに見いだしたはずのカテゴリがじつは大味であることがわかり、そのカテゴリに含まれる切片を対象に、あらためて似たものを寄せて下位カテゴリをつくるなど、試行錯誤を重ねたのは立派でした。

 また、図の左右を時間軸に設定し、どの時点で、距離感の変化が生じるのかを示そうとしたアイディアもよかったと思います。ただ、授業でもコメントしたとおり、時点の特定を適切にできたのか、少々気になります。今回は、カードにタグを付けるやりかたを示しませんでしたが、各カードに、「時点」のタグをつけながら分析を行うことで、カテゴリと時点の双方を視野におさめた分析もできたかもしれません。

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Dチーム

  自分たちが明らかにしたい事象は何であるのか、をクリアに見定められたのがよかったと思います。得られた結果の見せ方も、図を丁寧に作っているだけでなく、わかりやすく示すための工夫があってよかったと思います。試行錯誤した甲斐がありましたね。
 できあがったカテゴリをみると、他のチームが設けた設問に助けられている部分が多々あることにも気づきます。自分たちが設けた設問のみでインタビューを行っていたらどうだったか、ということも考えてみてください。その場合、どのような設問があるとよかったのか、こうした点も考えてみると、視野が広がりそうです。

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Eチーム

 実習経験が実習生に大きな変化をもたらすものであるという「前提」をゆさぶる面白いものだと思います。チームでディスカッションを重ねた成果ですね。

 考察を導く過程は、3つの側面ごとのKJの結果を、考察でまとめる力技です。ただし、その力技は弱点にもなりえます。3つのカテゴリを横断して関連付けられる根拠を十分に示せると、さらによかったと思います。
 また、どうしてこの3つの側面を取り上げたのか、より妥当な説明ができるような気がします。ディスカッションを通じて、さらに磨きをかけられそうですね。

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2017年度はこちら

YNU集中講義(分析メモ)

各チームのRQと分析の方針(暫定版)

A:実習生同士の関わりが、実習生活に与えるモチベーションはどのようなものか?
・質問に対する回答をひとつの分析単位として、“実習生同士の関わり”と“モチベーション”にかかわるものを抽出した。
※分析単位が大きくないかを確認


B:実習での経験が職業に対する志向にどう影響を及ぼすか?
・職業に対する志向に関する5つの質問を対象に、質問と質問にたいする回答を分析単位として抽出した。ただし、これらの質問にたいする回答以外にも、職業志向に関するエピソードがある場合、これらも抽出した。

※分析単位が大きくないかを確認

 
C:教育実習期間中において、実習生と子どもの距離感の変遷はどのようなものか?
また、そのきっかけは何か?
・子どもにかかわる部分を〇〇を分析単位として抽出する。

 

D:教育実習の充実感にはどのような環境要因が影響を及ぼしているだろうか?
・質問にたいする回答にたいして、意味のまとまりを分析単位として、先生とかかわる部分、学校制度とかかわる部分の2つの側面について抽出した。

 

E:教育実習経験者は、教育実習の経験を踏まえて、教師になった際、実習生にどこまでの指導を認めるべきと考えるか?
・RQ修正方針:「経験」のヴァリエーションはどうなっているか?「考え」のヴァリエーションはどうなっているか?それらはどのような関連にあるのか?
・質問に対する回答を分析単位として、教育実習の5つの側面(A,B,C,D,E)に対応する設問の回答を、5つの側面ごとに抽出した。

※分析単位が大きくないかを確認

 

 

引用の仕方の補足(例)

引用の仕方について、2018年度の「社会調査法」の記事の関連する部分を、改変して再掲します(もとはこちら

 

たとえば、レポートにつぎのような文章を書いたとします。

 

 問いを立てるとはどういうことだろうか。一般的に調査の実施前に問いは明確になっているものであると言える。しかし、質的調査においては、問いがたつのは、調査がある程度進んでからであるという。どういうことだろうか。フィールドワークをするなかで、どこに焦点を定めて居ていくのかを絞ってていき、調査も終わりに近づいた段階になってようやく、問いを本格的に考えることができるようになるという。・・・

 

実際には、つぎの青文字赤文字が引用にあたります。

 

 問いを立てるとはどういうことだろうか。一般的に調査の実施前に問いは明確になっているものであると言える。しかし、質的調査においては、問いがたつのは、調査がある程度進んでからであるという。どういうことだろうか。フィールドワークをするなかで、どこに焦点を定めて居ていくのかを絞ってていき、調査も終わりに近づいた段階になってようやく、問いを本格的に考えることができるようになるという。・・・

  

ところが、このままでは、青文字赤文字が「引用であること」、そしてその「引用元」がわかりません。これでは、レポートの読み手に、どこが”レポート作者の考え”で、どこが”レポート作者が自説を説明するために参照した第三者の考え”なのかがわからなくなってしまいます。 この場合、意図していなくても、剽窃になってしまいます。それではどうしたらよいのでしょうか。

 

引用を示す部分を黒太字で表記してみます。 2つのパターンを挙げます。

 

(例1)

 問いを立てるとはどういうことだろうか。一般的に調査の実施前に問いは明確になっているものであると言える。しかし、丸山(2016)は、質的調査においては、問いがたつのは、調査がある程度進んでからであるという。どういうことだろうか。丸山は「フィールドワークをするなかで、どこに焦点を定めていくのかを絞っていき、調査も終わりに近づいた段階になってようやく、問いを本格的に考えることができるようになるという(p.75)。・・・

 

引用文献

丸山里美(2006).フィールドワーク,岸政彦・石岡丈昇・丸山里美.質的社会調査の方法―他者の合理性の理解社会学有斐閣

 

(例2)

 問いを立てるとはどういうことだろうか。一般的に調査の実施前に問いは明確になっているものであると言える。しかし、質的調査においては、問いがたつのは、調査がある程度進んでからであるという(丸山,2016)。どういうことだろうか。フィールドワークをするなかで、どこに焦点を定めていくのかを絞っていき、調査も終わりに近づいた段階になってようやく、問いを本格的に考えることができるようになるという(丸山,2016,p.75)。・・・

 

引用文献

丸山里美(2006).フィールドワーク,岸政彦・石岡丈昇・丸山里美.質的社会調査の方法―他者の合理性の理解社会学有斐閣

 

黒太字によって、青文字赤文字が「引用であること」(さらに間接引用と直接引用であること)、また、「何の引用であるか(引用元)」を明確に示しています。これにより、レポート作者の考えと第三者の考えが区別されることになります。

・ただし、ディシプリンによって、また、ジャーナルによって、引用の示し方、引用文献の表記の仕方は異なる部分があります。困った場合には指導教員の指示に従ってください。

・レポートは第三者の考えを引用をもちいてつなぎ合わせるだけでは不十分です。あくまでレポート作者が主張したいことがあり、その主張を補強するために、第三者の考えを借りる、ということになります。この点に注意してください。

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