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Tsuchikura Laboratory

質問紙調査の注意点の補足

●質問量について(林,1975)

「質問紙調査では、調査対象者に興味を持たせるよう働きかける面接者または調査員が介在しない場合が一般的だから、調査対象者が応答してくれるかどうかはその人の応答意欲にかかっている。質問量はこの応答意欲を直接的に左右する要因として、その影響がもっとも大きいものと思われる。」(p.113)(その他、応答意欲に影響を与える要因は114頁を参照。)

「質問紙調査法が、通常、面接者または調査員を介さずに、質問・応答の過程を文書によるコミュニケーションに依存する事態を想定するならば、語法、すなわち、言葉づかい、もしくは言いまわし(wording or phresing)の重要性をどれほど強調しても、強調しすぎることはないであろう。」(p.116)

 

●ワーディングの注意事項(黒田・東,2008)※一部を紹介。表現や番号は変えていることがある。他の引用についても同様。

1.統一した用語を使用する

・例)貯金と預金といった用語のブレがないようにする

2.曖昧で漠然とした表現を避ける

・例)「所得はいくらですか?」→月収それとも年収?個人それとも世帯?税込みそれとも手取り?

・例)「最近、映画をみましたか?」→最近とは「この1か月くらい」それとも「この1年ぐらい」?(西野,2008,p.43)

・例)「あなたはなぜ今の大学で心理学を勉強しているのですか?」→「心理学を勉強するために今の大学を選んだのはなぜか?」or「今の大学で勉強するものとして心理学を選んだのはなぜか?」(日比野,2014,p.106)

→回答者により回答しているものが変わってしまっている

3.専門用語や俗語を避ける

・日常的・一般的に使用される用語をもちいる

4.ダブルバーレルの質問(double-barreled question)を避ける

・「未成年がタバコを吸ったりお酒を飲むことをどう思いますか?」(西野,2014,p.43)

・「日本は米や牛肉の輸入自由化にもっと積極的になるべきだと思いますか?」(西野,2014,p.43)

5.回答者の能力を超えた質問をしない

・例)過去のできごとの細部

6.回答者が答えにくい質問は避ける

・例)収入や支持政党など

7.誘導尋問を避ける

・例)「最近、少年非行が問題になっていますが、あなたの実感として、こうした少年による重大な事件が以前に比べて増えていると思いますか?」(西野,2014,p.44)

・例)「学級崩壊の原因は何だと思いますか?」価値を備えている言葉に気をつける(西野,2014,p.43)

8.キャリーオーバー効果を避ける

・キャリーオーバー効果:前の質問の内容が後の質問に影響を与えること

・例)環境問題を尋ねた後で、自動車(バス)と自転車のどちらの通勤・通学を増やすべきかを尋ねる→自転車を増やすべきという回答が増加する(日比野,2014,p104)

9.質問が長くならないようにする

・簡潔な表現を心がける

10.提示順序に気をつける

・答えやすさを考慮する。重要なものは前へ。

 

●回答の選択肢の設けかた(西野,2014,p.47)

・相互排他的かつ網羅的な選択肢をそろえる

→網羅的でない場合、該当する選択肢がない人が現れる

→相互排他的でない場合、どれに該当するか迷ってしまう

 

●回答の選択肢に関する注意

「たとえば独裁国家では、独裁者が偉大な指導者だと思うかどうかとたずねて、「絶対そう思う」「強くそう思う」「そう思う」「たぶんそう思う」「その他」という選択肢のなかから回答を選ばせることも行われている。この回答をあわせてほぼ100%の国民が偉大な指導者と思っているという結果を導き出し、それが喧伝されるわけである。ダム建設支持派が、建設支持派1名と反対派3名を並べて、この4名のうちの誰を支持するかを問う世論調査なども巧妙な世論形成といえる。支持派は全員が1名に投票し、反対派の支持は3名に分散するので、結果として支持派の候補の集票率が高くなるからである。」(西野,2014,pp.46-47)

 

文献

林英夫 1975 質問紙の作成(4章),続有恒・村上英治編 心理学研究法9 質問紙調査,東京大学出版会,107-145.
日比野桂 2014 質問紙の作成から配付まで,宮本聡介・宇井美代子編 質問紙調査と心理測定尺度,サイエンス社,99-116.
黒田宣代・東巧 2008 新版よくわかる社会調査法,大学教育出版
西野里子 2014 社会をはかるためのツール,学文社
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