・セイックラらによるオープンダイアローグの考えは、私たちとはその対象が大きく異なるものの、考え方においては重なる部分がありそうです。
・斎藤(2015)よりSeikkula & Olson(2003)の概要を要約します。
・オープンダイアローグを支える理論には2つのレベルがある(斎藤,2015)
・ミクロポリティクスと詩学
※以下、斎藤の訳によるSeikkulaらの要約
(1)ミクロポリティクス(micropolitics)
・制度としてどう実践するかを指す
・治療者のオフィスではなく、社会ネットワークのなかでなされるコミュニティケア活動
(2)詩学(poetics)
・対面して診療をおこなう場面での言葉づかいやコミュニケーションの実践を指す
・大切な3つのこと(原則)=治療面接の基本:不確実性への耐性、対話主義、社会ネットワークにおけるポリフォニー
・・これらは循環的な相互作用のもとで一体となって作動する
◇不確実性への耐性
・不確実性は、治療が安全に感じられる場合にのみ耐えられる
・不確実さとの格闘を可能にするのが対話
・不確実性への耐性を支えるのは、何度もミーティングをすること、対話の質を高めること
・・十分に時間をかけて人びとを支えることが求められる
・不確実性への耐性は、仮説を立てる、評価判定をする、というやり方とは反対の考えに立つ
◇対話主義
・特異な体験に共有可能な言語表現をもたらすことを目指す
・聴くことは、質問することよりも大切
・・聴取のゲーム⇔思弁ゲーム(他者に開かれていない)
・傾聴と理解の「共進化」
・・聞き手がいないモノローグから聞き手の応答とともに意味がつくられるダイアローグへ
◇社会ネットワークにおけるポリフォニー
・ポリフォニーを生みだす複数の主体の存在
・個人の苦悩の意味が明確になるような共有言語の創造を目指す
・・オープンダイアローグでは治すべき対象は存在しない
・・システムを変えるための介入を重視するアプローチとは異なる
・すべての参加者がコメントする権利をもつ
・目指されるのは理解と理解を結び合わせること
・・大切なのはコンセンサスにいたることではない
・・大切なのは白か黒かをはっきりさせることではない。互いの声が受け入れられ、傾聴とやりとりがうながされること。
・ネットワークのなかの他者の助けを借りながら、語り得なかったものに声を与える
(要約は以上)
・以上のセイックラらの踏まえて、私たちの関心にとって重要なのはどこか。
・ふだんの場所で、時間をかけて、性急な評価的まなざしから逃れて、アクター相互の理解(意味の創造)がうながされる機会があること。
・では、課題は何か。私たちの暮らしからそうした場面(シーン)がいつの間にか失われたのではないかと思われること。(それは本当か?本当だとすればどうして失われたのか?)そして、どうすればよいのか。こうしたことを考えてみましょう。
文献
Seikkula, J. & Olson, M. E. (2003) The open dialogue approach to acute psychosis: its poetics and micropolitics, Family Process, 42(3),403-418.(訳は斎藤(2015)による)